はじめに
音ゲーにおいて「3600族」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
インターネットの海を漂っていると、「3600族って何?」「意味はわかるけどなんで?」といった声を見かけることが度々あるんですが、詳しい解説が意外とどこにも見つからなかったので需要がありそうだなと思い、改めて解説記事を書いてみようと思いました。
筆者、長い文章を書くのがとても苦手なので、ところどころ日本語が支離滅裂だったり、簡潔にまとめられず無駄に長くなったりするかもしれませんが、少しでも役に立てていただけたら幸いです。
※本記事の内容の一部は、メーカー等が公式に発表している情報ではなく、ユーザーの経験則や推測などによる仮説に基づいています。内容が完全に正しいことを保証するものではありませんので、予めご了承ください。なお、筆者の語彙不足や知識不足などによる、明らかに事実と異なる記述があった場合は、ご指摘をお願いします。(クソデカ保険)
そもそも「3600族」とは?
まずは音ゲーマーの間で囁かれている3600族(3600属とも)ってそもそもどういう意味?という話です。
ずばり、音ゲーにおける「3600族」とは、
BPMが3600の約数である楽曲群
のことを指します。
では、なぜBPMが3600の約数の曲だけ「族」という言葉で呼ばれるほど特別視されているのか?という疑問が生まれます。
それは、
AC音ゲーにおいて、BPMが3600の約数である曲は(そうでない曲に比べて)4分音符の判定が素直になりやすい
という性質があるからです。
判定が素直だということは、当然精度が安定し上位判定が狙いやすくなるので、高ランクやスコア理論値が狙いやすい、最上位判定が前後1フレームなどの判定がシビアな曲でスコアが詰めやすいなどといった恩恵があります。
3600の約数は45個ありますが、音ゲーの楽曲のBPMとしてありがちなのは
... 100, 120, 144, 150, 180, 200, 225, 240, 300 ...
あたりでしょう。BPMがこの値である曲を見ると、玄人音ゲーマーは歓喜します。精度が取りやすいので。筆者のオンゲキの推しキャラである高瀬梨緒ちゃんのHere We Goも150BPMだよ!ヤッター!
ただし、表記BPMが3600の約数であれば無条件で判定が素直になるかというと必ずしもそうではなく、例外もあります。例えば(主にSEGA機種で)表記BPMは3600の約数でも曲中でBPMが3600の約数でない値に変化していたり、曲中に人間の生演奏やボーカルなどの不安定な音が使われていたりなど、他に判定がズレ得る要因がある場合は、判定が素直にならないこともあります。Here We Goはボーカルが乗ってるので実はそんなに判定綺麗じゃないよ!高瀬、嘘だよな…?
そしてここが一番勘違いされやすいところなのですが、(実は冒頭にもこっそり書いてあるとおり)理論上判定が素直になるのは、BPMが3600の約数の譜面のうち「4分音符(拍)」だけです。4分音符(拍)以外の(8分や12分、16分などといった)ノーツは、必ずしも判定が素直になることは保証されません。
ただ、4分音符以外のノーツでも大丈夫なパターンもあります。例えば、音符の長さの性質より、150BPMの8分音符は300BPMの4分音符と同じ速さです。300は3600の約数なので、300BPMの4分音符は判定が素直になります。この場合、同じ速さである150BPMの8分音符も判定が素直になります。同様に、例えば200BPMの24分音符も(無理やり計算すると)1200BPMの4分音符と同じ速さで、1200は3600の約数なので、200BPMの24分音符も大丈夫になります。
このように、𝒙 BPMの 𝑛 分音符を 𝒚 BPMの4分音符に換算したとき、𝒚 が3600の約数の場合は、𝒙 BPMの 𝑛 分音符も同様に判定が素直となります。
上記のような4分音符換算を、各3600族の主要BPMと各音符の長さでそれぞれ計算した時の換算後BPMと、その音符で判定がズレるかズレないか(=3600の約数であるか)の対応表を作りました。
この表から、実在する譜面で具体例を挙げていきます。
▲チュウニズムの初音ミクの消失[MAS](240BPM)。左半分の8小節は8分で構成されているので拍以外はズレてしまうが、右半分の8小節は12分で構成されているので全てのノーツで判定が綺麗になる。
▲オンゲキのSparkle[MAS](144BPM)。144BPMは拍以外の全てのノーツがズレてしまうため、実は3600族の恩恵は少なめ。
▲オンゲキの7thSense[MAS](150BPM)。一見複雑なリズムだが、24分・16分・12分・8分のみで構成されているので、なんと全てのノーツで判定がズレないことになる。150BPMはほぼ全ての音符で3600族の恩恵を受けられる。
▲オンゲキのPinqPiq (xovevox Remix)[MAS](150BPM)。この曲は全体的に16分と24分ハネのちょうど中間である「19.2分」でハネているのが特徴。とんでもないリズムに思えるが、150BPMの19.2分は計算すると720BPMの4分音符に相当し、720は3600の約数であるため、なんと150BPMの19.2分は判定が素直ということになる。PinqPiq (xovevox Remix)は8分・19.2分・24分のノーツしか存在しないため、にわかに信じがたいが全てのノーツの判定がズレないことになってしまう。ほんとか?
150BPMマジ最強。この世の音楽ゲームの曲全部150BPMで作ってほしいです。(?)
曲中にBPM変化が無く、かつ他に判定がズレる要因がなければ、150BPMは判定が素直で精度が取りやすい!と思っていいです。(PANDORA PARADOXXXの20分音符のような特殊なリズムが登場すると話は別ですが…)
beatmania IIDXで単発スコアアタックの代表曲として『Fly Above』が挙げられるのは、BPMが150だからというのも要因のひとつと言えるでしょう。
また、150BPMでなくとも、3600族であればその恩恵を受けられるシーンは十分にあります。
例えば、maimaiという音ゲーには通常ノーツに混ざって「ブレイク」というノーツが一定数登場しますが、これは前後1フレームという非常に厳しい判定を取らなければ満点にならないノーツです(通常ノーツは前後3フレーム)。しかし、このブレイクノーツは曲のフレーズの変わり目やアクセントとして用いられることが多いので、たいていは拍頭に配置されることが多いです(もちろん高難易度譜面だとそうでないこともありますが)。そのため、たとえ拍頭以外のノーツの判定がわずかにズレていたとしても、達成率理論値を狙うことにおいては、3600族の恩恵を十分に受けられるでしょう。
皆さんも音ゲーでスコアを詰めたり理論値を狙ったりしたい場合は、まず150BPMをはじめとする3600族の曲から挑戦してみるというのもひとつの手ではないでしょうか。
なぜ「3600族」?
ここまで3600族の意味についてだけひたすら語ってきましたが、次は「じゃあなんでBPMが3600の約数だと判定が綺麗になるの?」という話です。この章では、3600族の判定が素直になる原理を解説していきます。
まず、解説のための前提知識を知っておいていただく必要があるので、簡単に説明していきます。
「BPM」の定義
音ゲーの基礎のおさらいです。そもそも「BPM」って何だっけ?というお話。
BPMは「Beat Per Minute」の略で、1分あたりに刻む周期的なビート(拍・鼓動)のことです。主に曲の速さ(テンポ)や心拍数を表す単位として使われます。曲の速さの単位として使われる場合は、BPM値が高ければ高いほど、速いテンポの曲(心拍数)ということになります。
音ゲーで150BPMというと、拍(=4分音符)を1分間に150回ちょうど刻む速さということになります。60秒を150で割ると0.4秒なので、1拍0.4秒のリズムを正確に刻む速さということになります。
基本的なことですが、この「1分間」に刻む「4分音符」の回数という点をよく覚えておいてください。
「FPS(フレームレート)」について
次に「FPS」についてです。ここでいうFPSは、本人視点でキャラクターを操作し戦うゲームのファーストパーソン・シューティングゲームのことではなく、画面のフレームレートの方です。
ご存知だとは思いますが、テレビやゲームなどで画面に表示される映像が動いているように見えるのは、少しずつ動かした静止画を目にも止まらぬ速さで連続的に切り替えることによって、まるで動いているかのように見せかけているからです。これは、我々が住む日本でおなじみのアニメが動く原理と全く同じです。
もちろん音ゲーのモニターもそれは同じで、画面上に描画したノーツを少しずつ判定ラインに近づけるように動かした無数の静止画を組み合わせることによってノーツがスクロールしているように見せかけています。
この1枚1枚の静止画のことを、「フレーム」と呼びます。(当記事では、そのフレームの数を1F、2F…と数えます。)
▲モニターに描画されたノーツが動いているように見える様子。この画像は説明のために大雑把に動かしているが、実際はもっと細かく動いている。
そして、このフレームをどれくらいの速さで切り替えるかのことを「フレームレート」といい、FPSという単位で表します。
FPSは「Frame Per Second」の略で、1秒あたりに何枚のフレームを表示するかを表します。「30FPS」というと、1秒あたり30枚のフレームが描画されていることになります。このFPS値が高ければ高いほど、映像がより滑らかに動いているように見えます。
「3600族」との関連
前提となる知識を説明したところで、話を本題に戻します。
一般的に、AC音ゲーのモニターのフレームレートは60FPSであるとされています。(ここ超重要)
※これはモニターの規格で決められていることなので、そういうもんだと思っといてください。
※なお、下記のような一部の最新機種はモニターのフレームレートが120FPSであることが公式から発表されています。
・太鼓の達人 ニジイロVer [ソース]
・beatmania IIDX Lightning Model [ソース]
・SOUND VOLTEX Valkyrie Model [ソース]
※maimaiでらっくすは、2019/10/17のアップデートで入力精度だけ120FPSに向上したものの、モニターのフレームレートは60FPSで据え置きのようです。モニターも120FPSに変更するなら筐体(モニターそのもの)ごと変えないといけないですからね。[ソース]
また、フレームの描画速度に合わせて、入力判定処理も1/60秒に1回のペースで行われています。(垂直同期といいます)
▲音ゲーの基本的な入力判定のタイムチャート。モニターの描画と入力判定は1/60秒ごとに行われる。
さらに、描画、入力判定に合わせて、ノーツの判定も同じようにフレーム単位で処理されています。叩くべきぴったりのタイミング(判定の中心)から入力が何Fズレたかによって、PERFECT、GREAT、GOOD...のようにランク分けされていきます。
それぞれの判定ランクが何F分用意されているかは、機種によって違います。例えば筆者のよくプレイするSEGA機種では、maimaiのPERFECTは(判定の中心から)前後3F、チュウニズムとオンゲキのCRITICALは前後2F、さらに上級判定のmaimaiのCRITICALとオンゲキのPLATINUM BREAKは前後1Fといわれています。
▲最上位判定が前後1Fの音ゲーの例。多分このような判定の音ゲーは実在しない。
ところが、この上の図はあくまでも「ノーツを叩くべきタイミングがフレーム更新のタイミングとちょうどぴったり重なり、判定の中心のタイミングでノーツの描画が判定ラインと完全に重なる場合」の例です。
実際に世の中のゲーセンで稼働している音ゲーでは上の図のような場面は少なく、本来ノーツを叩くべきタイミングがフレーム更新のタイミングとズレてしまっている場合がほとんどです。つまり、あるフレーム更新タイミングから次のフレーム更新タイミングの間の1/60秒間のうちに、本来ノーツを叩くべきタイミングが来ることもあるのです。
これはすなわち、見た目上のノーツの描画が判定ラインにぴったり重なっているフレームが存在しないということにもなります。
なぜなら、入力判定は1/60秒に1回しか行われないのに対して、現実時間は無限に連続してるためです(当然っちゃ当然ですが)。
このようなノーツが音ゲー側でどのように処理されているかというと、次のフレーム更新のタイミングが判定の中心であることにされてしまいます。つまりタイミング的には、数ms~十数msほど遅れて配置されてしまうことになります。
例として、280BPMの16分連打を考えてみます。iLLness LiLinですね。
280BPMはBPMの定義より、「1分間(60秒間)に4分音符を280回刻む速さ」でした。よって280BPMの4分音符の速さを秒で表すと
60[s] ÷ 280 = 0.2142...[s]
となり、16分音符は4分音符をさらに4等分した速さなので、
0.2142...[s] ÷ 4 = 0.05357...[秒]
となります。つまり280BPMの16分連打は、1打あたり約0.053秒の間隔で刻むべきノーツということになります。
これに対し、音ゲーのフレーム更新の周期は1/60秒で、
1 ÷ 60 = 0.01666...[秒]
なので、音ゲーの判定の周期(フレーム更新の速さ)は1Fあたり約0.016秒の間隔ということになります。
叩くべきタイミングは0.053秒間隔で、ノーツとしての判定は0.016秒間隔ということは、この2つの周期は噛み合わずに、段々とズレていってしまいます。これを60FPSの音ゲーの判定の仕様に落とし込むと、下図のようにノーツの判定の間隔がガタガタになってしまいます。
※ちなみに※
SDVXやIIDXをはじめとするKONAMI製の音ゲーでは、このような判定ズレが発生する場合には、見た目上のノーツの描画を内部判定のタイミングの上にわざとズラして、判定ラインに全てのノーツが絶対にぴったり重なるように作ってあります。
▲よく見るとぴったり等間隔ではない。
もし仮に、判定周期の1.666[ms]と噛み合うようにちょうど1.666[ms]間隔でノーツが降ってきてくれれば、このようなズレは発生しません。
▲こうなってくれれば苦労しない…
全てのノーツの判定がフレーム更新周期と全く同じタイミングで降ってきて、間隔がガタガタにならず、判定タイミングが綺麗に等間隔で配置され、ノーツの描画も判定ラインにぴったりと重なるような、そんな「都合のいい譜面」があれば、こんなズレを気にしなくてもいいのに…
…
…
…
そう、
実はまさにそれが、
BPMが3600の約数である曲(の、4分音符)
なのです。
実際に具体例を挙げて計算してみます。
こんどは300BPMの16分連打を考えます。幽玄ノ乱ですね。
まず、300BPMの16分は1200BPM(1200は3600の約数)の4分と同等なので、3600族です。
300BPMの16分音符の間隔は、先程280BPMで行ったのと同様に計算すると、
60[秒] ÷ 300 ÷ 4 = 0.05[秒]
となります。
フレーム更新周期は1/60秒(0.01666...秒)だったので、3F分で3/60秒(0.05秒)ということになります。
なんと、ノーツの間隔とフレーム更新周期が0.05秒でぴったり一致しています。
つまり、常にちょうど3Fに1ノーツの間隔でノーツが降ってくることになります。
▲さっきの「こうなってくれれば苦労しない」が現実に。やったね!(これは罠で、300BPMの16分は普通に速いので苦労はする。)
これは、3600族の他のBPMで同じように計算しても、同様にノーツの判定がフレーム更新周期とぴったり重なる結果になります。
では、なぜBPMが3600の約数だと、このようにノーツの判定が等間隔に並ぶのでしょうか?
それは、ここまでの内容が理解できていれば実は割と簡単な話です。
1Fが1/60秒ということは、1秒間に60F、つまり1分間に3600Fが存在することになります。
この3600Fを均等に分割できるように判定を配置すれば、綺麗な判定であることになります。
3600を均等に分割できる数といえば、3600を割り切ることのできる数、つまり3600の約数です。
例えば3600を150等分に分割すれば、3600 ÷ 150 = 24 なので、ちょうど24Fに1回の判定を配置できることになりますし、同様に180等分すれば20F、200等分すれば18F間隔で均等にノーツの判定が配置できることになります。
そしてこの150, 180, 200といった数字、ものすごく見覚えがあるような気がします…。
そう、3600族のBPMです。
BPMの定義は1分間に刻む4分音符の回数のことでした。(←よく覚えておいてくださいと言った部分です。)
これはすなわち、3600Fのうちに刻む4分音符の回数ということになります。
3600Fのうちに刻む4分音符の回数【BPM】が3600をちょうど均等に分割できる回数【3600の約数】のとき、判定が等間隔で綺麗に整列するので、判定が素直になる
というわけです。
これが、「BPMが3600の約数である曲の4分音符は判定が素直になる」ということのからくりです。
おわりに
冒頭で「無駄に長くなるかも」と言いましたが、マジでめっちゃ長くなりました…
ここまでしっかり読んでくれている人は果たして存在するのでしょうか…
とにかく、「BPMが3600の約数だとハッピー!」という趣旨が少しでも伝わってくれていると幸いです。
記事について感想、質問、指摘などがありましたら、筆者Twitter【@Kennirio】までよろしくお願いします。
3600族でスコアを詰めて、良い音ゲ―ライフを!